「将来看護師になりたい」と娘から言われたとしたら──。親としてどんな言葉を返すべきか、考えたことはありますか?
看護師である私の周囲には、親が看護師という人が多くいます。小さい頃から親の背中を見て、子どもが同じ道を選ぼうとするのも自然な流れかもしれません。でも、実のところ私は娘に看護師という職業を勧めたいとは思っていません。
この記事では、そんな複雑な親の本音と、子どもの夢を応援したい想いの間で揺れるリアルな気持ちを綴ります。
看護師という仕事の現実
看護師はやりがいのある素晴らしい仕事です。人の命に関わる責任ある職業であり、感謝されることも多く、社会的にも信頼される存在です。
しかしその裏で、夜勤や長時間労働など、生活リズムが乱れがちで、体調を崩しやすい環境にあるのも事実です。
看護師同士の人間関係が厳しい職場も少なくなく、精神的にボロボロになることも。また、責任の重さに対して、給与水準が高いとは言えません。
さらに、看護大学に進学すると、私立では年間200万円程度、4年間で約800万円の学費がかかることもあります。
高額な学費をかけて、負担の重い業務に就き、他の業種に比べて年収が高いわけじゃない。これらの現実を考えると、安易に「看護師になったらいいんじゃない?」とは言えません。
社会の変化と選択肢の広がり
かつて女性が経済的に自立するには「手に職」が王道であり、看護師は安定していて収入も得られる職業として人気がありました。
しかし今は違います。一般企業の昇進制度も整備され、男女問わずキャリアを築ける環境が増えてきました。初任給や昇給率も、業界によっては医療職を大きく上回ることもあります。
看護師は夜勤手当が付けば、それなりの高収入にはなります。しかし、基本給は低水準に抑えられており、ここ数年の日本のインフレ率には全く追いついていません。
保険診療が財源の医療機関では、今後の収益が大幅に増える見込みも少ないので、看護師の給料が大きく増えることも期待できません。
それらを踏まえると、娘には、広い社会を見て、やりがいと対価(お給料)、自分の価値観に合った仕事を選んでほしいと思っています。
「看護師になりたい」と言われたら?
そもそも私の娘は、現時点で「看護師になりたい」とは思っていないようです。親が自身の職業を否定する姿を見せたくないので「看護師はやめなさい」と言ったことはありませんが、大学の進路を考える時期になり、「看護学部に行きたい」と言われないか、内心ヒヤヒヤしていました。
一般企業の社会人を経てから看護師になった私自身の経験からいえば、安定した収入が得られる「看護資格」はシングルマザーにとって経済的にも精神的にも大きな支えでした。
どんな時代でも仕事に困らない資格があるというのは、大きな強みです。シングルマザーが、日本の平均世帯年収以上の収入を得て、お金に困らず子育てや生活ができる職業って、数えるほどしかないですよね。
ただ、そんな看護師のメリットを考慮しても、やっぱり私には、看護師の「苦労」や「大変さ」「責任の重さ」の負担感の方が強く、娘には「もう少し楽な道もあるよ」と言いたい。
でも、もし娘が「看護師になりたい」と覚悟を決めたのなら、もちろん全力で応援します。
娘に伝えていること
私は娘に、仕事は何でもいい、自分の好きなことをやりなさい。でも「経済的に自立すること」は絶対に大切だと伝えています。
人生には思いがけないことが起こります。結婚や出産をしても、自分の収入で自分の人生を支えることができれば、選択肢は広がり、人生の舵取りを自分でできるからです。
そして何より、「仕事は人生を楽しくする手段の一つ」。つらいだけの仕事ではなく、やりがいや達成感、仲間とのつながり、自分の成長を実感できる仕事に出会ってほしいと思っています。
まとめ|親の本音と、子どもの未来への応援
私自身が、ある程度苦労をして生きてきたので、わが子には「楽で安定した仕事」に就いて、穏やかに人生を楽しんでほしい。世の中に「楽な仕事」なんて無いのは百も承知ですが、それが親としての本音です。
でも、それ以上に大切なのは、どんな道を選んでも応援するというスタンスです。看護師でも、会社員でも、アーティストでも、起業家でも──。
親の職業にとらわれず、自由に、自分らしく生きてほしい。
娘の未来が、希望と可能性に満ちたものであるように、親としてできる限りのサポートをしていきたいと思っています。